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社交不安障害/社交不安症(対人恐怖症)

社交不安障害/社交不安症(対人恐怖症)を具体的な例を交えて詳しくご説明します。

患者さんの例 Aさん 18歳 専門学校生

 Aさんは18歳の専門学校生です。幼稚園の頃から内気な性格で他の人と話をするのが苦手でした。小学校ではあまりに恥ずかしがるために、周囲からいじめられたこともありました。中学校に入るといじめはなくなったのですが、休日はほとんど家でTVを見たりしてすごしていました。授業中に発表する機会があると、緊張で手が振るえ頭の中が真っ白になり、先生が途中で助けてくれることがしばしばありました。両親は内気な子だと思う程度で、特に気にしていなかったようでした。高校に入って担任の先生が気にかけてくれたおかげで友達に声を掛けてもらって遊ぶこともありましたが、内気な部分は改善せず、自分の考えを口にして嫌われたらどうしようという思いがよぎり、無言で友達のおしゃべりを聞いてばかりいました。友達といる時間は大事だとは思うものの、不安と緊張で気が張り詰める時間をずっとすごしていました。

対人恐怖症01
 高校卒業後は芸術の専門学校に入りました。同級生は年齢にもバラつきがあり、バイトをしている人もなど生活サイクルが様々でした。そのため専門学校はプライベートにはほとんど口を出さず、人間関係などは個人個人の自立性に任せていました。Aさんは専門学校で誰にもうまく話すことが出来ず、教室で孤立してしまいました。ある日、同級生がAさんのことを「根暗だ」と言っていることを聞いてしまいました。その後、学校に行くのが恐怖になり、家族以外の人に会うと考えると不安で眠れなくなりました。それから徐々に学校を休むようになり、自宅で引きこもり自分の部屋にばかりいるようになりました。娘の異変に気づき、心配した両親がAさんを連れて精神科クリニックを受診しました。
 診察室では、初めて会う医師に緊張し、首を縦か横に動かすのみでほとんど話をしませんでした。しばらくして、自分自身の対人恐怖が本当につらいもので、吐き気やめまいを起こし、よく夜中に一人で泣いていたことを打ち明けました。

対人恐怖症02
 治療が始まり、抗うつ薬であるSSRIと抗不安薬が開始されました。また、精神療法として、不安に対して柔軟な考えを持てるように認知療法を行い、徐々に他の人と関われるように訓練をしていきました。最初は抗不安薬で不安を抑えながら外出をしていたAさんでしたが、徐々に他の人のいる場にいけるようになりました。そして学校も行けるようになり、無事に卒業も出来ました。元々内気だったため人と関わるのが苦手な面は今でもありますが、今はクリエイターとして自分の好きな仕事に就けて楽しく毎日を過ごしているようです。

対人恐怖症03

診断基準
A.他者の注視を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安。

 例として、社交的なやりとり(例:雑談すること、よく知らない人に会うこと)、見られること(例:食べたり飲んだりすること)、他者の前でなんらかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる。
注:子どもの場合、その不安は成人との交流だけでなく、仲間達との状況でも起きるものでなければならない。

B.その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れている。

すなわち、恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう、拒絶されたり、他者の迷惑になるだろう。

C.その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する。

注:子どもの場合、泣く、かんしゃく、凍りつく、まといつく、縮みあがる、または、社交的状況で話せないという形で、その恐怖または不安が表現されることがある。

D.その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら耐え忍ばれる。
E.その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り合わない。
G.その恐怖、不安、または回避は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
H.その恐怖、不安、または回避は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
I.その恐怖、不安、または回避は、パニック症、醜形恐怖症、自閉スペクトラム症といった他の精神疾患の症状では、うまく説明されない。
J.他の医学的疾患(例:パーキンソン病、肥満、熱傷や負傷による醜形)が存在している場合。

その恐怖、不安、または回避は、明らかに医学的疾患とは無関係または過剰である。

どういった症状が出るのか

 社交不安障害は他者に否定的な評価されることが恐怖である疾患です。従来から対人恐怖症と言われてきたものとほぼ一致します。恐怖、不安のために手が振るえる、心臓がドキドキするなど体の症状が出る人もいますし、不眠や気分の落ち込みや引きこもりなど心の症状に出る人もいます。
 赤面恐怖症や自己臭恐怖症なども社交不安障害の1つと言われています。赤面恐怖症は顔が赤くなることが恐いという疾患であると思われがちですが、実際は“人前で”顔が赤くなるのが恐い疾患です。無人島で一人顔が赤くなっても恐くないということです。
 パフォーマンス限局型社交不安障害は、人前で発表したりする時にだけ恐怖を感じてしまいます。その恐怖をパフォーマンス恐怖といいます。パフォーマンス限局型社交不安障害では、発表などのない日常の交流では恐怖を感じたり対人関係を避けることはありません。

原因は?

 特定の原因はなく、心理的要因だけでなく環境要因や遺伝的要因や生物学的要因もあると言われています。性格としては回避性パーソナリティ障害(プレッシャーに弱く責任のある状況を回避する人格)との関連性があるといわれています。移民という状態であると社交不安障害発症率が低いというデータもあり、よそ者であり体裁や人目を気にする機会が減れば社交不安障害が発症しにくいということなのかもしれません。生物学的にはノルアドレナリン系の過活動や、ドーパミン系の機能障害、セロトニン系の機能障害などが言われています。

治療は?

薬物療法と精神療法を組み合わせて早めの改善を

  1. 薬物療法

     セロトニンに対する効果として、抗うつ薬であるSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)が使用されます。SSRIの効果は早い人であれば1〜2週間ほどで出てきます。最初の量は副作用が出来るだけでにくい少しの量から始めますので、十分な量まで少しずつ増やしていく場合もしばしばあります。副作用は、飲み始めた頃に胃の不快感、下痢などの胃腸症状が出現することがあります。これらのお腹の症状は数日すると消えてくることがほとんどなので、少しくらいの違和感程度であれば飲み続けていただいても大丈夫です。ごくまれに動悸や興奮・混乱などが見られる場合があるので、困ったときは主治医に相談しましょう。
    また、SSRIは量が増えた後に減らす場合は徐々に減らしていく必要がある薬剤です。急にやめてしまうと離脱症状という反動が起こってしまうからです。やめる場合も必ず主治医に相談しましょう。
     ベンゾジアゼピン系抗不安薬ではクロナゼパム(リボトリール、ランドセン)などが使用されます。一時的な緊張の場合は、効果時間の短いものが使用されます。社交不安が常に起きていないパフォーマンス限局型のような人には、SSRIを投与せずに緊張する場面で抗不安薬を使用するだけで治療する場合もあります。
     精神に作用する薬ではないのですがアドレナリン系の過活動という生物学的な背景もあり、手のふるえなどに対してβブロッカー(βアドレナリン拮抗薬)も使う場合があります。
    生物学的な原因があるため、個人差があり症状が続くため治療を継続される方もいます。当院では患者様ときちんと相談し必要でなくなればきちんと薬を減量・中止していくよう心がけています。

  2. 精神療法

     一般的には行動療法、認知療法、認知の再訓練、脱感作、集会で語ること、宿題の範囲の割り当てなどを組み合わせて行われます。当院では診察時間内での認知療法、認知の再訓練の他に、患者さんの対人関係に注目し宿題を割り当てるなどしつつ、行動療法、脱感作を行ってまいります。クリニックで治療をしつつ、普段過ごしているときの過ごし方など自分自身で工夫をしていくことも大事です。
     治療の経過としては、一般的に1年以内で30%の人が改善し、2〜3年で約50%の人が改善するといわれています。薬物療法だけでなく、精神療法も組み合わせて少し気長に治療をしていく疾患だという理解が必要です。一方、治療を受けない人の約60%が数年以上症状が長引くといわれています。
     私の治療経験としては、Aさんのような症状が出てお母さんが心配して早めに受診された方がいました。2〜3ヶ月程で良くなり、学校に行けるようになっておられます。出来るだけ早めに受診することが、早い復帰への糸口になると考えています。
     対人恐怖は本人が苦しい以外にも、会社や学校に行けないなど将来に関わってくる損失につながる可能性が高い状態です。時間が無駄に過ぎていくのは出来るだけ避けたいところです。診察に来ることを迷ったら、相談できる身近な人にまず打ち明ける形でも良いのでなんらかの解決の方法を考えていきましょう。

緊急時(診察時間外)

大阪府では夜間・休日に、精神疾患を有する方やその御家族様などから、緊急時にお電話いただければ、必要に応じて精神科救急医療機関の利用についてご案内するというシステムがあります。
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