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はたらく人・学生のメンタルクリニック

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躁うつ病

躁うつ病を具体的な例を交えて詳しくご説明します。

患者さんの例 Aさん 21歳 男性 大学生

 Aさんは21歳の男性です。元々明るく社交的な性格でした。普段は大学生をしており、日本の伝統に興味を持っていました。例年夏に差し掛かる前頃は、ぼーっとすることが多く本人も意欲の低下を感じていました。
 大学3年生の6月頃から気分が高揚し突然「漬物で世界を変えることが出来る」と言い出し、大学にも行かず睡眠もせず昼夜を問わず漬物を作るようになりました。しばらく様子を見ていた周囲も、心配して休むように言うと怒り、楽しそうに語りだすと止まらないエネルギーに異様さを感じていました。1週間様子を見ても一向に変化がなく、通販で大量の1斗樽と30万円の請求書が自宅に届いたことで家族が驚き、本人をつれて精神科を受診しました。
 診察では「今に全米でブームになるから、早く家に帰って漬物を作らないと」といい、常にそわそわしていました。躁状態のため十分な休養を取れておらず精神科医に入院を勧められましたが本人は拒否し、家族もあと1週間だけ自宅で様子を見たいと申し出ました。不登校や金銭的なトラブルはあったものの対人トラブルはさほど目立たず、まずは薬物療法を始め自宅で療養することになりました。内服を始め最初の2、3日はただよく眠るのみでしたが、徐々に落ち着きを取り戻しました。今では生活リズムは整い、大学にもいけるようになり、通院を続けながら普段どおりの生活ができるようになりました。

診断基準

 躁うつ病は名前の通り躁状態(躁病エピソード)とうつ状態(抑うつエピソード)が症状として出る疾患です。
*うつ状態についてはうつ病のページを参考にしてください。
 症状によって躁病エピソードを症状に持つ双極Ⅰ型障害、軽躁病エピソードを症状に持つ双極Ⅱ型障害に分かれます。この違いはあとで説明します。

躁病エピソードの大前提として、一日のほとんどで次の2つの状態がみられます。
  • 気分が高揚・開放的または易怒的になる。
  • 異常かつ持続的な目標に向けての活動がある。
さらに次の7項目中、3項目(気分が易怒的のみなら4項目)があるということが必要です。
  1. 自分が凄い、偉いと感じる(自尊心の肥大、誇大)
  2. 寝なくても大丈夫(睡眠欲求の減少)
  3. 多弁、喋り続けたい
  4. 話が脱線していく、複数の考えがせめぎ合う(観念奔逸)
  5. 注意散漫
  6. 目標に向けた活動の増加、または精神運動焦燥(無意味な活動の増加)
  7. 困った結果につながる可能性の高い活動への熱中(買いあさりやばかげた投資など)
双極Ⅰ型障害:躁病エピソードを症状に持つ
  1. 1週間以上続いている、もしくは1週間続く前に入院した。
  2. 社会的に著しい問題があるほどの障害がある、もしくは本人や他人に害が及ぶのを防ぐために入院が必要である、もしくは妄想などの精神病性の症状がある。
  3. 過去の抑うつエピソードの有無は問わない。
双極Ⅱ型障害:軽躁病エピソードを症状に持つ
  1. 4日間以上続いている。
  2. 社会的に著しい問題があるほどの障害はない。
  3. 抑うつエピソードを過去にもつ。

*抑うつエピソードを過去にもたない人に軽躁病エピソードが出現した場合は、双極II型障害とは言えません。他の特定される双極性障害という診断名になります。

原因は?

うつ病と躁うつ病は違う病気であるという考え方が現在の主流です。

 うつ病と躁うつ病は違う病気であるという考え方が現在の主流です。そもそも治療薬が異なり、また遺伝性や性差から見ても、うつ病と躁うつ病は異なるものです。治療薬は効果が実証されているものの、生物学的には解明されていないことも多いのが現状です。
 内因性に生じることも多く、つまりなにも原因がないのに突然気分が高揚したり気分が落ち込んだりすることも特徴です。会社をクビになるなど何らかの原因があって発症しやすいうつ病と比較して、ストレスとの関連性は限定的です。初めての発症はストレス因があることも多いですが、繰り返すたびに再発の原因がはっきりしなくなっていくといわれています。ストレスへの対処は大切なことですが、一方でストレスをなくしたからといって躁うつ病が完全に防げるわけではありません。
 有病率はいろいろな文献がありますが、覚えやすい数字にすると双極I型障害で約0.5~1%、双極II型障害で約1~2%と倍の差があります。

性別による差はほとんどなく、女性に多いうつ病とは違うところです。

 発症年齢はうつ病よりも若く、20歳前後が多いとされています。ただ、高齢発症の躁うつ病がないわけではありません。
 遺伝性がかなり強く、家族歴は通常の10倍のリスクといわれており、近親の度合い度が高いほど発症のリスクが増加するといわれています。
 性格要因としては肯定的な実証は得られていませんが、クレッチマーが提唱した明るく社交的な人がなりやすい循環気質が有名で、うつ病の性格としては真面目で几帳面というメランコリー親和型が有名です。

経過は?

躁うつ病はうつ状態の期間は長いものの、躁状態・軽躁状態はうつ状態と比べると期間が短いです。
頻度も一般的にはうつ状態になる回数のほうが多いです。

 躁状態やうつ状態を繰り返すたびに健康な期間が短くなっていき、最初は3~6年ほどなにもない期間が続くものの、繰り返すと1年以内に再発を繰り返すようになる人もいます。治療をしないと10回以上躁状態もしくはうつ状態を繰り返すと考えられています。双極性障害患者の25~50%は、長期間の支援後も社会的な機能は病前までには回復しないといわれています。

就労現場では双極性障害が一番就労困難を来たすように思います。

 再発率の高さ、維持療法の困難さ(治療からの脱落)、休職を繰り返していく度に周囲・時代から取り残されていく社会人としてのスキル、継続する仕事を任せられない症状の不安定さ、など。休職期間満了になって退職となる人も少なくないでしょう。そうなる確率を少しでも減らすためにも、治療の継続が必要不可欠になっていく疾患です。

治療は?

治療は薬物療法と精神療法・心理教育(疾病教育)、それと入院治療になります。

  1. 薬物療法

     維持療法が必要な疾患であり、つまり症状の再燃を出来るだけ抑えるために薬を飲み続けないといけない疾患です。気分安定薬や抗精神病薬に加え、症状によっては抗不安薬や睡眠薬が使用されます。気分安定薬は血中濃度の管理が重要で、高濃度になると危険な中毒症状が出るため定期的な採血検査が必要です。
     薬物療法で一番大切なことは飲み続けることです。経過の部分でも触れましたが、再燃するごとに様々な機能の悪化が起こるため、患者本人は治すことの他に悪くしないことも心がけないといけないという地道に闘っていかないといけない病気なのです。
     原則的に躁うつ病のうつ状態には抗うつ薬は使用されません。躁うつ病はうつ病とは別の疾患と考えられており、一時的にうつ状態が改善されてもその後気分が上がり続け躁状態となる躁転の危険性があるからです。躁状態を引き起こすと周囲のトラブルや事故の可能性が上がり生活上の大きなリスクになります。

  2. 精神療法・心理教育(疾病教育)

     精神療法は主にうつ状態へのアプローチのものが多く、躁状態への有効な精神療法は確立されていません。うつ状態への精神療法は、うつ病のページをご参考ください。双極性障害へのうつ状態の精神療法は、症状、社会的機能、再発のリスクを緩和するといわれています。
     双極性障害を理解することは治療にとって非常に重要な要素になってきます。治療を続けていくにあたって、十分に納得をした上で内服の継続、悪化の前兆に気づくこと、悪化時の正しい対応が本人を守ることになります。
     家族への心理教育も大事で、本人を支えていく意味でも、本人の病状に振り回されないようにするためにも家族の病気への理解が必要になってきます。家族の感情表出が高い(High EE)と、再発のリスクも高くなってきます。
     一方で、都市部では単身での生活をしている双極性障害の方も多く見かけられ、経験上は単身者の方は治療を継続することが難しく予後が悪い印象があり注意が必要です。

  3. 入院治療

     クリニック・診療所では対応できないほど症状が重篤であったり、自分や他人を傷つける可能性が高い場合は入院医療が必要になってきます。精神科病院など入院設備のある医療機関への受診を行います。

緊急時(診察時間外)

大阪府では夜間・休日に、精神疾患を有する方やその御家族様などから、緊急時にお電話いただければ、必要に応じて精神科救急医療機関の利用についてご案内するというシステムがあります。
電話番号:0570-01-5000
※一部のIP電話などからは接続できません。
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